― 災害を“自分ごと”にするために、家づくりでできること ―
9月1日は「防災の日」。多くの学校や地域では避難訓練が行われ、テレビやSNSでも防災関連の特集を目にする機会が増えます。でも、こうした日が過ぎると、どこか他人事のように感じてしまうこともありませんか?
災害は突然やってくるもの。だからこそ、「いつ起きてもおかしくない」と心に留めておくことが、家族の命と暮らしを守る第一歩になります。
今回は、防災の日をきっかけに、住まいの防災性能や、備えのために私たちができることについて、家づくりの観点から考えてみたいと思います。新築やリフォームを検討中の方はもちろん、今の暮らしを少しでも安心なものにしたいと考える方にも役立つ内容を、できるだけわかりやすくお届けできればと思います。
「安心できる家」は、土地選びからはじまっている
家づくりというと、間取りやデザインに目が行きがちですが、実は“防災に強い家”は土地選びで8割決まるとも言われています。
どんなに丈夫な建物を建てても、浸水しやすい土地や地盤の弱い場所に建っていては、本来の性能が活かしきれないこともあります。
ハザードマップの読み方を知っておこう
自治体が公開しているハザードマップは、災害リスクを可視化した大切な情報源です。洪水、土砂災害、高潮、地震など、さまざまなリスクが色分けされています。
とはいえ、初めて見ると「色がたくさんあって難しそう…」と感じてしまうかもしれません。
そんなときは、以下のようにポイントを絞って見てみましょう。
- 浸水想定区域に入っていないか
- 土砂災害警戒区域が近くにないか
- 避難所や高台への距離はどれくらいか
これらのチェックポイントを参考に、地形や水の流れをイメージしながら読み解くと、災害時の“逃げやすさ”や“備えやすさ”が見えてきます。
地盤の強さも要チェック! “地盤改良”の知識
土地が見つかったら、次に気にしたいのが地盤の強さです。
軟弱地盤に建てられた住宅は、地震の際に大きく揺れやすく、建物の傾きや沈下の原因になることも。とくに、埋立地や元・田んぼだった場所などは、地盤調査で弱いと判断されることが少なくありません。
主な地盤改良工法と費用の目安(30坪程度)
工法 | 適用目安 | 概算費用 |
---|---|---|
表層改良 | 軟弱層 2m未満 | 約30~70万円 |
柱状改良 | 軟弱層 2~6m | 約100~150万円 |
鋼管杭 | 軟弱層 6m以上 | 約120~250万円 |
家の重さや構造によっても最適な方法は変わってきますが、設計段階での地盤調査と改良は“目に見えない安心”を支える大切な要素です。
停電に備える―電気がないと、暮らしはここまで不便になる
地震や台風のあと、もっとも生活に直結して困るのが「停電」です。
冷蔵庫、エアコン、スマートフォンの充電、照明、インターホン…あらゆるものが電気で動いています。特に、真夏や真冬の停電は体調にも影響します。
「電気がない生活」を想像してみる
防災を考えるとき、非常食や水の備蓄と同じくらい大切なのが「電力の確保」です。最近は、以下のような自家発電設備や非常用電源を取り入れる家庭も増えています。
- 太陽光発電+蓄電池
昼間に発電した電気を蓄電池にためて、夜間や停電時に利用可能。補助金制度がある地域も。
- ポータブル電源(モバイルバッテリーの大型版)
冷蔵庫や照明の一部をまかなえる機種もあり、アウトドアや停電時に活躍。
- 自動車の給電機能
ハイブリッド車やEV(電気自動車)を活用して家電製品に給電する「V2H(Vehicle to Home)」という仕組みも登場しています。
玄関ドア・窓・ガラスの“災害対策”できていますか?
外部とつながる部分は、災害の被害を受けやすい場所でもあります。特に気になるのが飛来物によるガラス破損や、外からの侵入のリスクです。
飛散防止フィルムや防犯ガラスの活用
台風が多い地域では、ガラスの内側に飛散防止フィルムを貼るのがおすすめ。割れても破片が飛び散りにくく、けがのリスクを抑えられます。
また、強盗などを想定した防犯ガラス(合わせガラス)を選べば、防災と防犯を兼ねた安心感が得られます。
玄関の電気錠、電池式と電源式どちらがいい?
最近の新築住宅では、「スマートロック」と呼ばれる電気錠を採用するケースも増えています。
ICカードやスマートフォン、顔認証で開け閉めできる便利な仕組みですが、停電や電池切れの際は使えなくなる可能性も。
電池式と電源式、それぞれのメリット・デメリット
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
電池式 | 停電に影響されない/施工が簡単 | 電池切れの可能性/こまめな交換が必要 |
電源式 | 電池交換不要/安定動作 | 停電時に使えない/配線工事が必要 |
どちらが向いているかは、家庭のライフスタイルや、非常時の想定に応じて選ぶとよさそうです。
防災収納は“見える化”がカギ
備蓄はしていても、いざというときに「どこにあるか分からない」「古くなっていた」とならないように、防災用品は“見える収納”がおすすめです。
家族で共有できる防災ラックをつくる
玄関クロークやパントリーの一角に、以下のような“防災エリア”を設けておくと便利です。
- LEDライト、乾電池
- 携帯トイレ、防寒シート
- 飲料水、カップ麺、栄養補助食品
- ペット用の備蓄(ペットがいる場合)
ラベリングやチェックリストを活用して、定期的な見直しができるとさらに安心ですね。
家の中の“逃げ道”を確保しておく
地震などで家具が転倒すると、避難経路がふさがれてしまう危険があります。日常生活では意識しにくいポイントですが、実はとても重要な“見えない備え”です。
家具の配置と固定、見直しポイント
- ベッドの近くには大きな家具を置かない
- 廊下や階段、出入口に物を置かない
- 家具はL字金具や転倒防止器具でしっかり固定
小さな地震でも揺れやすい家具を見ておくと、「この棚、意外と危ないかも」と気づくことがあります。点検ついでに掃除をすれば、気持ちもスッキリしますね。
「わが家だけの避難計画」をつくってみる
行政が指定する避難所に行くことも大切ですが、家庭ごとに最適な避難ルートや備えは異なります。
災害時に迷わないための工夫
- 最寄りの避難所までのルートを実際に歩いてみる
- 車が使えないときの移動手段を確認しておく
- ペットを連れて避難できるかどうかを調べておく
- 家族の集合場所や連絡方法を決めておく
災害は夜間や雨天にも起こり得ます。懐中電灯を持って歩いてみたり、小さなお子さんと一緒に避難訓練してみたりすると、見えてくる課題があるかもしれません。
展示場で「災害対応住宅」を体験しよう
住宅展示場には、最新の防災技術を取り入れたモデルハウスも多くあります。
- 耐震等級3の家
- 太陽光+蓄電池完備の家
- 避難グッズの収納例が見られる間取り
- 高断熱・高気密で災害時も快適な室温を保てる家
こうした展示を見て回ると、自分たちの暮らしに取り入れたい「安心の仕組み」がきっと見つかります。専門スタッフに「災害時ってどうなりますか?」と質問してみるのもおすすめです。
まとめ ― 家族の安心は、「想像力」と「準備」で守れる
どんなに科学が進んでも、自然災害を完全に避けることはできません。
でも、「わが家はこうしよう」「この対策を今から始めよう」と考えることは、誰にでもできます。
「安心して暮らせる家」とは、ただ頑丈なだけの家ではなく、家族が安心して“暮らし続けられる”家のこと。
そのためには、土地、設備、収納、日常の動線にいたるまで、防災の視点を少しだけ加えてみることが大切です。
今年の防災の日は、ハザードマップを見るだけでなく、家の中をぐるりと見回して「備える視点」で気になるところをチェックしてみてはいかがでしょうか。
「何も起きないのが一番」。でも、「何かあっても大丈夫」な住まいが、きっと家族の心をいちばん強くしてくれるのではないかと思います。